2017年5月14日日曜日

新聞寄稿文(南海日日新聞2017年3月)


公益財団法人自然保護助成基金(PNF)助成事業 
「外来ネコ問題研究会主催連続シンポジウム(全5回)」 
シンポジウム 奄美の自然と“島んちゅ”の未来!!
―みんなで考えよう!ネコ問題とクロウサギ、そして世界自然遺産のこと!!
第1回徳之島 2017326 第2回奄美大島 2017328



南海日日新聞「ネコ問題シンポジウムに寄せて」
 共に考える機会に 山田文雄 321日掲載)
 多様な種 脅威にさらす 塩野崎和美 322掲載
 屋外飼育の危険性 長嶺 隆 (323掲載
 「ネズミよけ」から「家族」へ 伊藤圭子 324掲載
 実効性ある体制づくり 諸坂佐利 (325掲載)


 共に考える機会に  
奄美大島や徳之島において,希少種保全に対してノネコ問題がなぜ大きく取りあげられるようになってきたのでしょうか?それまでは,外来種のマングース問題が大きな関心事でしたが,外来種対策が功を奏して効果を上げ,外来種マングースは奄美大島からほぼ排除される段階の根絶近くになり,その結果,アマミノクロウサギなど在来種が復活してきました.しかし,その上前をはねるように,数が増え見つけやすくなった在来種をノネコたちが盛んに食べるようになってきたために,問題が顕在化してきたといえます.もちろん,従来から細々ながら着実に進められていたノネコの捕獲排除対策が,停止されたことも大きな原因にあげられます.
生物多様性や生態系の保全が重要だという認識が広がる中で,愛玩動物由来のノネコ対策が進まないのは,人間社会内の意見の違いや対立によって,有効な対策の実施を困難にさせているためといえます.ノネコ影響の情報不足,人間側の理解や合意形成の不足,さらには条例や法整備などの社会制度の不備など,そろそろこれらを克服する工夫が必要な時期に来ているといえます.
私たちは、世界自然遺産候補地の奄美大島や徳之島など,わが国の島嶼が抱えるイエネコによる希少種などの在来種影響や生態系影響の問題を早期に解決するために、生物研究者や法制度研究者,獣医師,行政担当者などで「外来ネコ問題研究会」を作り,2014年から取り組んでおります.これまで,環境省希少野生生物対策室と連携して、奄美琉球の島嶼を対象としたネコ問題に関するシンポジウムの開催(東京,大阪,福岡,横浜)や,国際学会や国内学会でのシンポジウムの開催(札幌,沖縄)などを実施し,解決策の検討や普及啓発活動を進めてきております。ネコ問題を解決するには,問題の現状をよく知ることが重要で,今までどおりの方法や対策では問題解決に限界があることがわかってきました.
今回のシンポジウムは、公益財団法人「自然保護助成基金(プロ・ナトゥーラ・ファンド助成,PNF)」の助成事業として,外来ネコ問題研究会主催による全5回の連続シンポジウムの一つです.具体的には,今回の3月(徳之島と奄美大島の2回)と夏ごろに予定されているIUCNの現地調査が行われる前後の時期に、奄美大島と徳之島での2回のシンポジウムを開催し、さらに9月頃に他地域のノネコ問題を抱える全国の島嶼も含めたシンポジウムを東京で開催することを計画しています。
今回の3月のシンポジウムでは,奄美大島や徳之島において,不適正飼養されたネコが絶滅危惧種のアマミノクロウサギやトゲネズミなどにどのような脅威をもたらしているのか,そしてそれを早期に対策を立て,正常な自然生態系を取り戻すにはどうすればいいのかという問題について,私たちの専門家から講演します.それらを踏まえて,会場にお越しの方々と建設的な議論を展開し,この問題を共有し,世界遺産登録やその後の管理に向けての方向性を見いだせればと考えています.この問題を共通して解決させようと,地元の団体や環境省および地元自治体など多数の共催や後援をいただいております.
ネコに関心のある方,島の自然に関心のある方,あるいはそのどちらにもまったく関心のない方も,是非とも会場に来て,私たちの話を聞いていただき,議論に加わっていただければと思います.自分たちの島の問題とは何か,その問題をどうしたいのか,どうしたくないのかを一緒に考える機会としていただいてはいかがでしょうか? 
山田文雄 (外来ネコ問題研究会.森林総合研究所)

 
 多様な種 脅威にさらす
世界自然遺産登録を目指す奄美大島・徳之島では、希少動物の脅威となっているノネコへの対策が大きな課題であり、その対策に関する報道がテレビや新聞紙面を飾ることが増えているため、ノネコについて目や耳にしたことがある島民も多いでしょう。ノネコとは「人に依存せず山野で自活し野生化したイエネコ」のことですが、少し前まではノラネコやヤマネコと混同する方も少なくありませんでした。しかし最近はそれが何者であるかの認識も非常に高くなっていると感じています。同時にこのノネコが島を代表する希少動物のアマミノクロウサギを襲っていることもかなり知られてきました。そんな両島のノネコ問題がクローズアップされつつある中、今年1月19日に徳之島で起きたクロウサギをくわえるノネコの姿が自動撮影カメラで撮影されたとの報道は記憶に新しいと思います。大々的にテレビニュースで全国放送され、日本中にこの事実が知られることとなりました。
 しかしながら奄美大島・徳之島のノネコ問題とは、クロウサギが襲われ食べられるといった単純なものではありません。どちらの島も世界自然遺産登録を目指そうとする自然豊かで生物多様性に非常に富んだ島々です。さまざまな野生動物が生息する自然環境の中で生活をしているノネコが、クロウサギだけを襲っているなんてことはあり得ません。事実、ノネコが餌としている生き物は多岐にわたり、中でも特にネズミ類を好んで食べることがさまざまな研究から明らかになっています。そしてこの奄美大島・徳之島には希少な天然記念物であるネズミ類が3種(ケナガネズミ、アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ)も生息しているのです。もちろんこれらがノネコの餌となっていることも明らかになりました。加えて島には外来種のクマネズミが豊富に生息し、ノネコにとっては非常に多様で魅力的な餌が存在する環境となっています。その結果、ノネコの脅威にさらされる動物も多岐にわたるといった望まれない状況を生み出しているのです。また奄美大島と徳之島、距離も近く似た自然生態系を持っていますが、森林面積は大きく異なり、生息している野生動物の数なども異なることから、ノネコが主な餌としている動物も両島で違いが見られることも徐々に分かりつつあります。
 奄美大島・徳之島におけるノネコは、元来島には生息していなかった外来性の肉食哺乳類であることが最大の問題ですが、さらに悪化させる原因は皮肉なことに島の魅力でもある多様な生物相がノネコに山中で自活し繁殖できる環境を与えていることにあります。餌となる動物が豊富で、気候も温暖な環境では、ノネコの数が自然に減少することはあり得ません。その時が来るとすれば、山に餌となる動物が激減もしくは絶滅してしまった時でしょう。もちろんそれでは手遅れです。世界自然遺産登録を目指す両島の生物多様な生態系にはクロウサギだけではなく、希少な3種のネズミ類、ルリカケスやアマミヤマシギといった鳥類、アマミハナサキガエルなどの両生類、さまざまな昆虫類の存在が不可欠ですが、ノネコは必要とされていないどころか存在してはいけない生き物なのです。
 塩野﨑和美(奄美野生動物研究所)


 屋外飼育の危険性
 奄美大島、徳之島には肉食の哺乳類は生息していない、すなわち現在、生息している島のネコたちは、すべて島外から持ち込まれたことになる。ネコは元々、ネズミから食料を守るハンターとしての役割を期待されながら飼育されてきた歴史があり、現在ではもっぱらその愛らしさから愛玩動物としての役割が大きいといえる。ペットとしてのネコの存在は、時として人の暮らしを変えてしまうほどの魅力を持っている一方、時として、島の財産を根こそぎ奪ってしまうほど大きな影響力を持っている。北海道の天売島、御蔵島、石川県舳倉島の海鳥繁殖地や渡り鳥被害、小笠原や沖縄県のやんばるのヤンバルクイナ等の希少種の捕食など国内の多くの島々でのネコによる被害は枚挙にいとまがない。
特にわが琉球列島の生物たちは肉食の哺乳類がいなかったため、うまく対応し、逃げるすべを持ち合わせていない。原因は明確で、本来家畜として人間が責任を持って管理をしなければならないネコが自由にハンティングを行い、野生動物のように振る舞っていることに起因している。牛や豚が住宅街から山林を自由に歩き回っていることが受け入れられるはずもないが、ネコはそれを許されていることの異常さに気付くべきである。ネコの不適切な飼育状況からすれば、牛や豚の飼い主の管理は格段に上だといえる。また、ネコのみがその感染源となっているトキソプラズマという原虫は、人の妊娠初期の妊婦に感染すると胎児にトキソプラズマ症を発症させる恐れがあり、しかもその感染率は必ずしもネコの飼育者が高いというわけでは無い。屋外飼育されているネコやノラネコが排せつしたふんの中に含まれるトキソプラズマのオーシストという卵みたいなものが家庭菜園や農作業をしている人々に感染する可能性が高いと言われている。飼い主ならいざ知らず、この被害が無関係の人々に及んでいる可能性があるとしたらどうだろうか。
さて、奄美大島、徳之島そして沖縄では、屋外飼育のネコにはハブ対策や家畜小屋のネズミよけという役割があることも分かる、しかし、屋外飼育のネコの多方面に及ぼす被害を考えれば、もはや屋外飼育を正当化する理由はない。今後は、走行中の車両が路上を徘徊する多くのネコを回避するために発生する交通事故の問題が顕在化してくる可能性が高いと予測している。このことはネコ自身にも不幸が降るかかることを意味しており、飼い主は多くの感染症や事故からもネコを守る義務がある。
これらの課題に果敢に取り組み、成功した事例がある。2011年に世界自然遺産に登録された小笠原諸島の父島では、すでにノラネコがほとんど姿を消す状況まできている。今回奄美大島、徳之島、やんばると一緒に世界自然遺産登録を目指す西表島では、森林内にノネコが生息していないレベルに達している。大切なことは両島ともに飼い猫もたくさんいるという事実である。そのことを成しえたのはやはり、ネコの適正飼育に協力してきた島の人々の努力と、適正飼育を実現できる仕組み(ネコ条例)を作った行政とNGOの協力であったと言える。奄美大島と徳之島にもすでにその準備ができつつある。最後にそのスイッチを押すのは島民の決断だと思う。
長嶺隆(NPO法人どうぶつたちの病院 沖縄理事長)



 「ネズミよけ」から「家族」へ
一般の小動物の診療をしていると、外に出る飼い猫の多さに島に来た当初は驚いたものです。避妊手術するメス猫も、「何回も出産しているのよ」とお話しする方がいますが、その子猫たちがどうなっているかは聞けません。「ネコの寿命は15年前後ですよ」「5~6年もしたらどこかに行って帰って来なくなるものではないの?」。そんな会話もよくある話です。大切にしていないわけではないようです。しかし、命を預かっているという意識がまだまだ希薄なのでしょう。
猫も犬も、言葉に少し違和感があるかもしれませんが「家畜」のカテゴリーです。つまり、私たち人が管理し面倒を見て、人とともに生きる動物なのです。人の管理の外で自由に生き、繁殖し、死んでいく野生動物とは完全に別物です。しかし、猫はなぜかこの「自由」「野生っぽさ」を求められるところが根強くあります。外に出ることは最たる自由の象徴でしょうか。言葉の通じない動物、帰って来ないかもしれない。明日交通事故に遭うかもしれない。ハブにかまれるかもしれない。どこかの庭をトイレにして、誰かの怒りを買っていないと断言できるでしょうか? しかし、「たとえどこかで死んでも、自然の成り行きだから」と妙な納得をしている方がとても多いのが現状です。
ペットは人の管理の下で。社会で生きていくためには必要なことであり、当然でもあります。私たちの生活スタイルもずいぶん変わりました。ペットも同じで、猫だけがいつまでも「昔と同じ」とはいかないのです。何よりも、ペット自身の安全や健康のために、きちんと管理することはとても大切なのです。飼い方も番犬やネズミよけから家族・伴侶へ。飼い主としての責任が問われる社会へと変わっている過渡期だと思います。
20年も前は野良犬が群れをなして市街地をうろついていたと聞きます。今ではリードのない犬が1匹で歩いていたら「どうしたのだろう?」と思うでしょう。保健所に通報が行き、飼い主の元へ戻されます。以前は「野良犬がいなくなるなんてできるわけがない」と言った人もいたのではないでしょうか。今やそれが当たり前になっています。猫とは少し事情が異なりますが、当時の人たちが尽力したことには変わりありませんし、飼い主の意識が変わっていったからでしょう。猫では不可能でしょうか? 時代は少しずつ変わり、社会というのはいつの間にかその姿が受け入れられていきます。奄美大島に来て丸3年が経ち、室内飼いも増えたように感じています。
ノラネコがのんびり寝そべっている光景は「癒やされる」と思うかもしれません。しかし、雨の日も寒い日も台風でも帰る家はなく、食餌もまともにありつけないかもしれない。病気になっても誰も助けてはくれないという「現実」に気付くことができれば、少しずつ変わっていけると思います。「家畜」であるはずの猫だけが野良で生きていることを良しとしてはいけないのです。野良犬がいつしかいなくなって、それを「寂しい」という人は少ないと思います。それと同じように、野良猫もいなくなるでしょう。それは寂しいことではなく、ペットが伴侶動物として社会になじんでいく過程と結果なのだと思ってもらいたいです。
伊藤圭子(ゆいの島どうぶつ病院院長)


 実効性ある体制づくり
奄美大島、徳之島、沖縄県のやんばる地域、そして西表島の世界自然遺産登録に向けた動きが正念場を迎えている。今夏以降には国際自然保護連合(IUCN)の現地視察も控え、ここで勝負が決まるといっても過言ではない。当地における遺産登録の要は、ネコ問題である。放し飼いのネコの一部は、完全に人の手を離れ野生化してしまい(法律上「ノネコ」と呼ぶ)、アマミノクロウサギなどの希少種を捕食、絶滅へと追い込んでいる。この問題の解決なくして「登録」はあり得ない。
問題解決の方策の一つは、鳥獣保護法に基づくノネコの捕獲・排除をいかにスピーディに実現できるかである。通常、シカやイノシシは、生来の野生動物であり、食肉・皮革産業の資源でもあるから、殺処分を前提に捕獲されるが、ノネコはそういった資源価値がないばかりか、放し飼いのネコ(ペット)が紛れているかもしれないところから、生け捕りにして所有者の有無を確かめ、所有者なしと判断されると動物愛護の精神から順化(保護収容)する。それだけコスト(時間、費用、手間)がかかる。
もう一つの方策が飼い猫をノネコ化しないことであるが、こちらは動物愛護法が推奨する適正飼養(室内飼養、マイクロチップ装着などの所有明示、不妊去勢、予防接種)を飼い主が順守さえすれば解決となる。しかしネコは、元来、ネズミ駆除のために飼っていた背景があるため、放し飼いを世の常としてきた。今でもネコの室内飼養に否定的な人も多いと聞く。
アマミノクロウサギやトクノシマトゲネズミの絶滅が先か。ネコの捕獲・排除を先行できるか。この問題は時間との勝負である。しかるに筆者は思うのである。島民の自然に対する慈愛・畏敬の成熟度を測る問題、翻れば、島民の利己心、傲慢さを測る問題でもあると。
世界自然遺産は、「登録」がゴールではない。登録後は6年ごとにユネスコへの報告義務がある。すなわち人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」を持続できているかの監査が待ち受けているのである。「危機遺産」という言葉を聞いたことがあるだろうか。武力紛争、自然災害、大規模工事、都市開発、観光開発、商業的密猟などにより、その顕著な普遍的価値を損なうような重大な危機にさらされている世界遺産をいい、2016年12月現在55か所が登録されている。われわれは、単に「登録」を目指すだけでは足りず、この貴重な自然を守り続ける法制度・体制づくりこそが必要なのである。これにはわれわれは自然に対して常に謙虚でなければならない。自然を破壊するのは、ネコではない。そのネコを野外に放置した人、この問題に無関心な人である。ネコ問題とは、人の問題である。自然のことは自然に任せておけばいいという意見も時々聞かれるが、ネコは元来自然のものではないのであるから、ピントがずれていると言わざるを得ない。貴重な自然の恩恵があってこそ島民の暮らし、アイデンティティーは育まれてきたはずである。それを後世に引き継ぐのは、島に生きる者の使命であり、責務でもある。しかしそれは島民のみに一方的に押し付ける問題でもない。類いまれな日本の自然は国民の財産でもある。この問題は、オールニッポンで考えていかなければならない。
諸坂佐利(神奈川大学法学部准教授)







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